食後の血糖値の乱れが心の病まで引き起こしていたなんて!
「血糖値スパイク」が心筋梗塞やがん、認知症といったさまざまな病気と関係していることが多くの人に知られるようになってきた。
通常の健康診断や人間ドックで測るのは「空腹時血糖」、これが正常の範囲に収まっているからと安心してはいけない。「空腹時血糖」が異常なしでも「血糖値スパイク」は起きている可能性がある。
「血糖値スパイク」とは空腹時の血糖値は正常だが、食後に血糖値が急上昇と急下降を繰り返すことだ。
「血糖値が高い=メタボ体型の中年男性」というイメージを持つ人もいるかもしれない。ところが、健康診断で異常なしと言われているひとにも、スリムな体型の女性にも、血糖値スパイクは存在する。
「血糖値スパイク」は自律神経のバランスを乱し、心の病を引き起こす原因にもなっている。
このことはまだあまり注目されていないが、長年精神疾患の患者様と関わり、その食生活を指導してきた著者(溝口徹)にとっては、ごく当たり前の事実なのである。
あなたの日々のイライラや不安、頭痛、疲れの引き金にもなっている可能性が高いのだ。
すでに海外では、血糖値と心の病の関係はかなり明らかになってきている。2008年のバンクーバーの学会では、血糖値調節障害は精神症状の大きな原因の一つであると発表されている。
なぜうつなどの精神疾患が栄養とかかわっているのか疑問に思う人がいるかもしれない。
現状の精神疾患の診断は、おもに眠気、抑うつ、イライラ、集中力や意欲の低下、頭痛、ほてる、発汗、手の震えなどその「症状」をもとになされている。しかし、これらの症状は、内分泌や代謝、血液といった身体疾患がある場合にもあらわれるものなのである。分かりやすく言い換えれば、うつだから意欲が低下するわけではなく、内分泌や代謝、血液に問題があるから、意欲が低下することがあるということだ。
そして、この身体疾患の原因は、食生活にある。さらにその食生活の根底には、血糖調節異常があるのだ。
そもそも血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度を示す値である。
血糖値は通常はホルモンによって調整されて一定の範囲に収まっている。食後は誰でもブドウ糖の濃度が高くなるため血糖値も上がるが、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されることで血糖値が適正な値へと下がる。逆に血糖値が低くなると、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールといったホルモンが働き、その濃度を上げ常に適性を保っている。
これらの反応によって、食後、血糖値はゆるやかにあがり、その後ゆるやかに下がって3~4時間後には空腹時とほぼ同じ数値になるのが正常な変化だ。
ところが、糖質の取りすぎや体質、腸のトラブルなどによって血糖値が急激にあがると、その調節のためにインスリンなどのホルモンが大量に分泌され、血糖値を下げようとする。すると、今度はそれに反応して下がり過ぎた血糖値をあげようと、アドレナリン、ノルアドレナリンコルチゾールなどのホルモンも放出されてしまう。
その結果自律神経が乱れ、心にも体にもさまざまな症状があらわれるというわけだ。
インスリンの大量分泌によって血糖値が下がり過ぎれば、脳にエネルギー源として供給されるブドウ糖が不足してしまうため、集中力の低下や強い眠気に襲われることになる。また、血糖値を上げるために興奮系のホルモンであるアドレナリン、ノルアドレナリンが大量分泌されれば、動悸や手のしびれ、筋肉のこわばりや頭痛、精神面ではイライラや不安感、恐怖心といったものがあらわれることになる。
このように、私たちの心と体は血糖値の安定と深くかかわっている。
そして血糖値を安定させること、すなわち血糖値スパイクをなくすこと、これがこの本の目的である。
また、「糖化」(血糖値が高い状態が続くことで、体内で糖とたんぱく質が結合する現象)が、老化を促進することもわかっている。
これまで3000人を検査してわかった、うつやパニック障害、不眠といった心の病と血糖値の関係を解き明かし、「血糖値スパイク」や「糖化」を防ぐ食べ物、食べ方を紹介している。 糖質の摂取量が増えた食生活の変化と心の不調の増加の相関関係に気付くことで、読者の方が日々の食事を見直し、心と体の健康を取り戻すきっかけとなれれば本望である。
《目次》
序章 「血糖値スパイク」が心の不調を引き起こす
・そのイライラ、不安、疲れ・・・原因は「血糖値」!?
・うつは「第4の糖尿病合併症」
・精神疾患の診断基準のひとつに糖尿病が
・心のトラブルの根底にある「低血糖症」
・血糖値が心に影響を与えるメカニズム
・「血糖値スパイク」チェックリスト
第1章ひそかに起こっている「血糖値スパイク」
・医師のあいだでは問題視されていた「血糖値スパイク」
・諸悪の根源は活性酸素
・「血糖値スパイク」が見逃される3つの理由
・食後30分以内に「血糖値スパイク」が起きている!?
・「血糖値のピーク」より「食後の前後差」をチェック
・「血糖値スパイク」の有無を知るには
・ヘモグロビンA1cは他の要素の影響を受けやすい
・「血糖値スパイク」を調べるおすすめの検査項目
第2章 「血糖値スパイク」が自律神経を乱す
・「血糖値スパイク」の陰にある「インスリンスパイク」
・自律神経の乱れは心まで乱す
・インスリンは血糖値を下げられる、唯一のホルモン
・症例①うつ・・・原因は「血糖値スパイク」だった
・症例②パニック障害・・・症状が落ち着いたら体重も元通りに
・症例③慢性疲労症候群・・・何をやっても疲れがとれない理由
・症例④不安感・・・同時に動悸や頭痛、めまいも起きていた
・症例⑤イライラ・・・見えない「血糖値スパイク」の可能性
・症例⑥不眠・・・夜間低血糖は翌日の生産性を落とす
・そもそも、糖質はため込むようにできている。
・「水を飲んでも太る」のは、インスリンのせいだった!
・2段階で分泌されるインスリン
・”ブドウ糖の運び屋”には数種類ある
・インスリンの節約に役立つ運動と栄養素
・「インスリンスパイク」がある人は糖尿病予備軍
第3章 「血糖値スパイク」が心と体の老化を早める!
・老化の陰にも「血糖値スパイク」が
・「糖化」で使い物にならなくなるタンパク質
・カルシウムがあっても骨粗しょう症が起こる理由
・あらゆる病気の引き金になる「糖化」
・血糖値が上がるほど認知症のリスクも上がる
・統合失調症の2割は糖化が関係している!?
・「卵子の糖化」=「卵子の老化」だった!
・糖尿病でない人も「糖化」は進行している
第4章 「血糖値スパイク」を防ぐ食べ物、食べ方
・糖質の本来の役割を考える
・脂肪が人間を作ってきた
・1万年前から「糖質=主食」の時代がはじまった
・腸での消化が早すぎるのが問題
・肝機能も血糖値に影響する
・ゴールは「糖質制限」ではなく「血糖値の安定」
・高たんぱく食で血糖をコントロールする
・脂肪酸からエネルギーをつくり出す
・「ケトン体」を利用できる体になる方法
・糖質に代わってとりたい中鎖脂肪酸
・こんな人は「糖質制限」してはいけない
・血糖値が下がっているとき、糖質をとるのは逆効果
・食事の30分前にたんぱく質をとる
・血糖値を上げない「食べ順」
・1日の食事回数は気にしなくてOK
・生活スタイルに合わせて「糖質オフタイム」をつくる
・調味料、果物、小麦・・・注意が必要な食べ物
・「お箸を置いたら歩く」習慣を
・「血糖値スパイク」を防ぐおすすめの栄養素
・ビタミンD・・・効果盛りだくさんの注目の栄養素
・亜鉛・・・「血糖値スパイク」を防ぐ強い味方
・ビタミンB6・・・病気や老化を防ぐ「古くて新しい栄養素」
・食物繊維・・・糖の吸収を穏やかにする